Top > 1-19. アルデヒド、ケトン

二日酔いとシックハウス症候群

アルデヒドは一般的にはあまり良い印象がないでしょう。アセトアルデヒドは二日酔いの原因物質、ホルムアルデヒドはシックハウス症候群の原因物質としてよく知られています。メタノールを飲むと失明するのは代謝産物であるホルムアルデヒドが原因です。

アルデヒドやケトンの多くは不快な臭気を呈します。例えば加齢臭、いわゆる「おやじの臭い」は皮脂に含まれる2-ノネナールの臭いです。加齢臭の原因が2-ノネナールであるという事実は資生堂の研究所が2000年に発見しました。


Fig. 1-65 加齢臭の成分、2-ノネナール

除光液に含まれるアセトン(最も簡単なケトン)も独特の臭気があります。アセトン臭は人によって好き嫌いがありますがあまり良い臭いではないでしょう。

一方、アルデヒドの中には心地良い芳香を持つものも少なくありません。アセトアルデヒドにベンゼン環がついたフェニルアセトアルデヒドは桂皮(シナモン)の香り成分で、別名をシンナムアルデヒドといいます。

フェニルアセトアルデヒドは安全性が高く、食品添加物として殺菌や香り付けに使われています。

一部例外はありますが、揮発性物質のうち不快臭がするものは有害で心地良い芳香をもつものは無害だと考えていいです。それにはちゃんとした根拠があり、長い進化の歴史の中で有害な物質(毒や腐った食物)は不快臭として感じるように遺伝子が自然選択されてきたからです。

アルデヒドとケトンの命名法

アルデヒドは一般式R-CHO、ケトンやR-(C=O)-R'で表されます。アルデヒドとケトンは構造異性体の関係にあります。

アルデヒドのIUPAC命名法は母体となる有機化合物の-eを-alに置き換えます。例えば炭素数2のアセトアルデヒドCH2CHOはエタンのメチル基がアルデヒド基-CHOに置き換わっているのでエタナールと命名します。

ケトンは母体となる有機化合物の-eを-oneに置き換えます。ただしケトンの場合はカルボニル基-(C=O)-が鎖の途中にあるのでその位置を示す場合があります。例えば炭素数3のケトンであるアセトンCH3(C=O)CH3はプロパン骨格の2番目がカルボニル基になっているので2-プロパノンと命名します。

ここで注意しなければいけないのはカルボニル基が末端にある場合はケトンではなくアルデヒドだということです。アセトン(2-プロパノン)の構造異性体として化学式がCH3CH2(C=O)Hで表される化合物を考えた場合、これは1-プロパノンではなくプロパナールになります。

カルボニル基の反応性

アルデヒドとケトンの特徴はカルボニル基をもつことです。カルボニル基は電気陰性度の高い酸素原子に電子が引き寄せられて分極し、炭素原子は求核攻撃を受けやすくなっています。

カルボニル基の反応性の強さは両側にある置換基に影響されます。置換基の電子供与性が大きければ大きいほど反応性は低くなり、逆に置換基の電子供与性が小さい場合や電子求引性の場合は反応性が高くなります。

反応性の高さはホルムアルデヒド>その他のアルデヒド>ケトンの順になります。また、置換基のサイズも反応性に影響を与えます。一般に置換基が大きいほど反応性は低くなります。(Fig. 1-66)


Fig. 1-66 反応性の強さと置換基の関係

ところで1-18. アルコール、エーテルではアルコールが代謝されて生じるアルデヒドの毒性について少し述べました。その毒性は高い反応性に起因していたのです。さらにアセトアルデヒドCH3CHOよりもホルムアルデヒドHCHOのほうが毒性が強い理由もホルムアルデヒドのほうが反応性が高いことから説明がつきます。

グリニャール反応

グリニャール反応は有機合成の分野ではC-C結合を形成する重要な反応のひとつで、求核性炭素を持つグリニャール試薬R-MgXとカルボニル化合物が反応することでアルコールを生成します。

マグネシウムは炭素よりも電気陰性度が低いのでC-Mg結合では炭素のほうに電子が偏っています。この炭素原子はカルボニル基の炭素原子とは真逆の状態であると言えます。

グリニャール試薬については1-14. ハロゲン化アルキルで少しだけ述べましたが、この項ではハロゲン化アルキルからグリニャール試薬が生成する反応機構について詳しく述べることにします。


Fig. 1-67 臭化アルキルからのグリニャール試薬生成の反応機構

グリニャール試薬はハロゲン化アルキルをエーテル中でマグネシウム片と反応させることでラジカル反応(Fig. 1-67)により生成します。溶媒にエーテルを用いるのは非共有電子対がマグネシウムを配位することで反応性を高めるためです。

さて、ここからが本題です。グリニャール試薬がアルデヒドやケトンなどのカルボニル化合物と反応してアルコールを生成するグリニャール反応について説明していきます。


Fig. 1-68 アセトアルデヒドと臭化エチルマグネシウムのグリニャール反応

臭化エチルマグネシウムがアセトアルデヒドのカルボニル基を求核攻撃して結合が形成します。点線は電子対がその部分に移動して結合が形成することを意味します。それと同時にカルボニル基のπ電子が押し出されて酸素原子側に移動します。

この段階ではMg+Brが酸素原子の負電荷と結合していますがそれを酸で加水分解すると2-ブタノールが生成物として得られます。生成物の4個の炭素原子のうち2個がアセトアルデヒド由来、2個が臭化エチルマグネシウム由来です。

基質がホルムアルデヒドの場合は第一級アルコールが、その他のアルデヒドの場合は第二級アルコールが、ケトンの場合は第三級アルコールが生成します。

ヒドリドイオンによる還元反応

ヒドリドイオンとはH-で表される水素のアニオンです。プロトンが正電荷を持つのに対しヒドリドイオンは負電荷を持ち、強力な還元剤として振舞います。


Fig. 1-69 ヒドリドイオンによるアセトアルデヒドの還元

アルデヒドやケトンにヒドリドイオンを反応させて酸で加水分解を行うとそれに対応するアルコールが生成します。例えばアセトアルデヒドを還元するとエタノールが得られます。(Fig. 1-69)

ヒドリドイオン供与体としてはアルデヒドやケトンを還元する場合は一般に水素化ホウ素ナトリウムNaBH4が用いられます。これは1-10. 酸化と還元の定義に当てはめると水素の酸化数が-Tの例外的な化合物であると言えます。

アルコールとの反応

アルコールは非共有電子対をもつのでカルボニル基に対しては求核剤として働きます。酸触媒存在下でアルデヒドやケトンにアルコールが付加するとヘミアセタールを経てアセタールが生成します。アセタールとは1個の炭素原子に2つのアルコキシ基がついたエーテルの一種で、基質がケトンの場合はケタールと呼ばれることもあります。


Fig. 1-70 酸触媒によるアセタール生成の反応機構(クリックで拡大)

この反応は可逆反応で基質と生成物は平衡関係にあり、酸性条件化の場合は一般に平衡が右に偏っています。

アルドール反応

アルデヒドやケトンはケト型では求電子剤ですが、エノール型では求核剤として働きます。(ケト-エノール互変異性については1-15. アルケン、アルキンを参照)

アルデヒドまたはケトンのエノール型にケト型が付加してβ-ヒドロキシカルボニル化合物(アルドール)を生成する反応をアルドール反応といいます。この反応も可逆反応です。(Fig. 1-71)


Fig. 1-71 アルドール反応の反応機構(クリックで拡大)

反応には触媒として酸または塩基を必要とします。酸触媒と塩基触媒では反応機構が少し異なりますが、生成物は基本的に同じです。基質である2分子の化合物が異なる場合は特に交差アルドール反応と呼ばれ、異なる反応が同時に進むため複数のアルドールの混合物が生成します。

アルドール反応もC-C結合を形成することから有機合成に用いられています。またアルドール反応を触媒する酵素も存在し、生体内における生化学反応でも重要な位置を占めます。

アルデヒド基の還元性

アルデヒドは還元するとアルコールになりますが、酸化するとカルボン酸になります。カルボン酸とはカルボキシル基-COOHをもつ酸で、詳しくは後のほうで述べます。

酸化されてカルボン酸になるということは同時に相手を還元するということであり、即ちアルデヒドは還元剤として働くことになります。アルデヒドの還元性を利用した反応にはフェーリング反応と銀鏡反応があります。

フェーリング反応は硫酸銅CuSO4の水溶液にアルデヒドを加えると酸化銅Cu2Oの沈殿を生じる反応です。銅の酸化数は+Uから+Tに減少しているので還元されたことになります。

銀鏡反応はその名の通り銀の鏡を作る反応です。硝酸銀AgNO3の水溶液にアンモニア水を加えて酸化銀Ag2Oの沈殿を生じさせ、さらに多くのアンモニア水を加えると沈殿がなくなり、アンモニアの非共有電子対に銀イオンAg-が配位された錯イオン(トレンス試薬)が生じます。そこにアルデヒドを加えると銀イオンが還元されて銀が析出し、ガラス板の上で反応させると文字通り銀の鏡ができます。

この反応はアルデヒドとしてグルコース、いわゆるブドウ糖を使うと成功率が高くきれいな鏡ができます。さて、読者の中にはブドウ糖がアルデヒドだというところに引っかかった方もいるでしょう。

実は糖もアルデヒドやケトンの一種なのです。詳しくは事項で述べます。

1-20. 糖類

(2009/06/24)