Top > 1-2. 電子軌道

元素の性質を決めるのは電子殻

元素を原子量が軽いほうから順に並べると周期的に性質の似通った元素が出現したり、それらの性質がよく似ていても少しずつ異なるのはなぜでしょうか。

実は元素の性質を決定しているのは電子殻の存在です。

電子殻は何層にもなっていて内側から順にK殻、L殻、M殻、N殻という名前がついています。高校の化学を習った人ならおそらくこのように教わったことでしょう。

しかしこれだけは知っていてほしい恋愛の話ではそこをもう少し深く理解していただきたいと思います。高校に行ってなくても大丈夫、そんなに難しくありません。

電子は対になって存在

おのおのの電子殻は無作為に電子が散在しているわけではなく、ひとつないしは複数の電子軌道から成り立っています。

主な電子軌道にはs軌道、p軌道、d軌道があり、同じ殻ではs軌道は球状でエネルギーが低くp軌道はプロペラのような形をしていて高いエネルギーを持っています。d軌道は少し複雑ですが生物を扱う上でd軌道が出てくることはあまりないので気にする必要はありません。

ひとつの電子軌道には2個の電子が入ると安定します。それは電子がスピンしていて回転軸が上を向いた電子と下を向いた電子が一緒になって歯車のように回転したほうが安定するからです。

また、ひとつの軌道に同じスピンをもつ電子が同時に2個以上存在することはできません。この決まりをパウリの排他原理といいます。

電子の上向きスピンと下向きスピンはちょうど男と女の関係に相当します。これは恋愛を素粒子レベルで説明できることを意味します。

水素原子における電子の挙動はシュレディンガー方程式で正確に導くことができます。しかし私は恥ずかしながらそれを見てもちんぷんかんぷんです。

中性状態の原子では陽子の数と電子の数が全く同じです。つまり電子の個数は陽子の数で決まるのです。

陽子の数、すなわち原子核のもつ正の電荷と同じだけの電子がエネルギー順位の低い軌道から順に配置されていきます。

ここで量子化という考え方が必要になってきます。量子化というと難しく考えてしまいがちですが難しいのは字面だけです。

ここではペットボトルで売られている水を例に挙げてみます。2Lのペットボトルで売られている水は買うことのできる量が2L、4L、6Lと決まっていて3Lや5Lという中途半端な量を買うことができません。それに対して水道水は自由な量をとることができます。

量子化とはこのことです。

電荷の強さも量子化されていてその強さは陽子の数や電子の数で決まっています。ことことから原子や分子、イオンのもつ電荷の強さは常に整数値をとります。

電子殻は電子軌道からなる

水素の原子核は陽子1個だけから成るので1個の電子が最もエネルギー順位が低い1s軌道に配置されます。1s軌道は球形です。

1s軌道と高校の化学で習ったK殻は同じものだと考えていいです。(厳密には違う)


Fig. 1-3 水素原子の電子殻

K殻は1s軌道のみから成るので2個の電子を収容することができます。

次は酸素原子を見てみましょう。酸素原子の原子核には8個の陽子が含まれているので電子殻には8個の電子が入ります。

まず2個はK殻の1s軌道に配置されます。スピン方向はそれぞれ上と下になっています。K殻には1s軌道しかないので残りの6個は外側のL殻に入ります。

L殻で最もエネルギー順位の低い軌道は2s軌道で、次の2個がそこに入ります。

ややこしいのは残りの4個です。L殻には2s軌道よりも少しエネルギー順位が高い2p軌道があります。2p軌道はさらに2px、2py、2pzの3組が存在し、3つともエネルギー順位は同じです。

ただし同じエネルギー順位の軌道ではできるだけ電子スピンの向きを揃えたほうが有利になるので2px、2py、2pzにはそれぞれ上向きスピンの電子が1個ずつ入ります。(フントの規則)

そして残りの1個は2pxに下向きスピンで配置されます。

これでやっと8個の電子を電子殻に収容できたことになります。


Fig. 1-4 酸素原子の電子殻

p軌道は見ての通りお団子のような変わった形をしています。しかも軌道が原子核と交差しています。こんな軌道でなぜ原子核と電子が衝突しないのかは後述します。

電子配置と元素の周期律

水素からネオンまでの電子配置を軌道とスピンの向きで表したのがTable. 1-1です。

Table. 1-1 水素からネオンまでの電子配置。赤は価電子。

この表からわかることはヘリウムとネオンの電子配置が共に殻を満たしているということです。そして不活性であるという性質も共通しています。

ヘリウムやネオンの属する第18族は別名を希ガスといいます。

K殻は2個、L殻は8個の電子で殻が満たされて安定します。

ではネオンよりも先の原子はどうでしょうか。

Table. 1-2 ナトリウムからカルシウムまでの電子配置。3d軌道は省略してある。

ナトリウムからカルシウムまでの元素で殻を満たしているのはアルゴンです。実際はM殻には5つの3d軌道が存在するので18個の電子が入りますが、3d軌道は4s軌道よりもエネルギー順位が高いのでカルシウムまでの元素では3d軌道が使われることはありません。よってM殻もL殻と同様に8個の電子で安定することになります。この状態を閉殻といいます。また、8個で安定する法則をオクテット則といいます。

希ガスの他にも炭素と珪素、塩素とフッ素、リチウムとナトリウム、ベリリウムとカルシウムはそれぞれ同族で化学的性質がよく似ています。

元素の化学的性質を決めているのは最も外側の殻に入ってる電子、価電子です。Table. 1-1とTable. 1-2では価電子を赤で色分けしてあります。

同族元素の化学的性質が似るのは価電子の電子配置が同じだからです。しかし性質が全く同じにならないのは原子半径の違いによるポテンシャルエネルギーとd軌道やf軌道の存在が関わってくることに起因します。

電子は粒であり波でもある

さて、p軌道の電子が原子核と衝突してしまわないのはなぜでしょうか。

実は電子は野球のボールを投げたように連続的な運動をするわけではありません。煙のようで忍者のようなものだと考えてくれたらいいです。

電子はボールというよりは実体のよくわからないもやもやした煙のようなもので、難しくいうと波と粒子の両方の性質を持っていると言えます。

そして同じことが光にも言えます。光は波なのか粒子なのかよくわからないでしょうが、どちらも正解です。

電子の運動は飛び飛びで、いわば瞬間移動を繰り返している状態です。また、電子を観測しようとすると実際には1個しかなくても無数に見えてしまいます。

それは瞬間移動を繰り返しているため忍術「分身の術」と同じ原理で無数に見えてしまうのです。

電子軌道とは電子の通り道というよりも瞬間移動する電子がよく出現する場所と考えるべきです。原子核のすぐ近くに出現することはあっても原子核とダブることはありません。

希ガス以外の元素は原子1個が安定して存在することは少なく、大抵はいくつかの原子が寄り添って存在します。

それについては次のページで触れます。

1-3. 代表的な化学結合

(2008/07/05)