Top > 1-7. 酸と塩基T

難しく思われがちな酸と塩基

酸というとまず酢やレモンを思い浮かべるでしょう。それから胃酸も強力な酸です。

強力なものには塩酸や硫酸がありますが、水でうんと薄めるとなめることができます。

身近な塩基は灰やアンモニアです。強力な塩基には水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムがあります。

高校化学というのは大体酸と塩基あたりから数字が入ってきてややこしくなるもので、化学が苦手な人の多くは酸と塩基やそれにまつわる計算がわからなかったのではないでしょうか。

イオンのおさらい

酸や塩基の話に入る前にイオンについておさらいです。

イオンとは原子や分子が電子を得たり失ったりして電荷を帯びたものです。

さて、1-5. 水分子の構造と性質では液体の水においては水分子も一部はイオンに分かれていると述べました。具体的には水素イオンH+と水酸化物イオンHO-です。

酸と塩基ではこの二つが主役になります。


Fig. 1-17 水分子の電離

水素イオンは水素原子が電子を一個失って正の電荷を帯びたものです。

でもよく思い出してみてください。水素原子は1s軌道に電子一個、原子核は陽子一個です。つまり電子を失うと陽子だけになってしまいます。

陽子を英語でプロトンといいます。水素イオンは陽子そのものなので化学の世界でも水素イオンをプロトンと呼ぶことになっています。

以下プロトンというと水素イオンのことだと理解してください。

ヘテロリシスとホモリシス

水酸化物イオンは水分子からプロトンが一個外れたものです。

酸素原子には余分に電子が一個乗っているので負の電荷を帯びています。もしプロトンではなく中性の水素"原子"が外れた場合、ヒドロキシラジカルHO・になります。

ラジカルは電子が対を成しておらず非常に不安定でいろいろなものとすぐ反応します。ヒドロキシラジカルは生物にとって有害な活性酸素の一種です。

水酸化物イオンのほうは電子が対を成しているので比較的安定です。


Fig. 1-18 ヒドロキシラジカル

結合の切れ方には電子対が片方に残ったままイオンとして分かれる場合と電子対が割れてラジカルに分かれる場合の二通りがあります。前者をヘテロリシス、後者をホモリシスといいます。


Fig. 1-19 水素分子のヘテロリシス(上)とホモリシス(下)

酸、塩基の三つの定義

さて、酸や塩基の定義には実は三種類あるのです。

最も古いのはアレニウスの定義で、この定義では酸は水溶液中でプロトンを放出する化学種、塩基は水溶液中で水酸化物イオンを放出する化学種です。しかし塩基であるアンモニアは直接この定義には当てはまりません。

そこで次に出たのがブレンステッドの定義で、酸はプロトンを与える化学種、塩基はプロトンを受け取る化学種です。これだとアンモニアは塩基として当てはまります。

そしてあと一つ、最も新しいルイスの定義があります。ルイスの定義では酸は電子対を受け取る化学種、塩基は電子対を放出する化学種になります。

ルイスの定義では金属イオンも酸のうちに入るのです。

これだけは知っていてほしい恋愛の話では何のことわりもない限り酸、塩基というとルイス酸、ルイス塩基を指すことにします。

アレニウスの定義では酸は水中でプロトンを放出する化学種となっていますが、実際の酸は水中でプロトンが分子のように振舞っているのではなく水分子と「結合」しています。

水分子の酸素原子は非共有電子対を2つもっています。ここにプロトンが配位結合することで全体として正の電荷を帯びたH3O+として存在するのです。

これをブレンステッドの定義に言い換えると酸が水分子にプロトンを与えたということになります。

Table. 1-4. 酸と塩基の定義(クリックで拡大)

配位結合

さてここで配位結合というまた新しい結合が出てきました。配位とは非共有電子対にプロトンや金属イオン等のルイス酸が結合することです。

H3O+のH-O結合は全て等価であることから配位結合は共有結合の一種であると考えることができます。

配位結合する相手が金属の場合はイオン結合に近くなります。

共役酸と共役塩基

ブレンステッドやルイスの定義では酸と塩基は対になって存在するとされています。

ある化学種、例えば塩酸HClが水H2Oと反応して同量のH3O+とCl-に電離したとするとH3O+が共役酸、Cl-が共役塩基となります。H3O+は強い酸としての性質を示しますが塩素は電気陰性度が高いためCl-は電子を出しにくく塩基としての性質は弱くなります。

Cl-の塩基性よりもH3O+の酸性が強いため塩酸は酸として振舞うのです。

一方、水酸化ナトリウムNaOHの場合はNa+とOH-に電離します。

しかしナトリウムの電気陰性度が低いため共役酸であるNa+の酸性度は弱くなり、共役塩基であるOH-の塩基性が勝って全体としては塩基として振舞います。

共役酸と共役塩基の関係も電子スピンの時と同じく男と女の関係であると言えます。分子のレベルでも恋愛のようなものが存在するということです。

酸性度、塩基性度は物質固有

酸性度や塩基性度の強さは物質によって異なります。例えば弱酸である酢酸は一部の分子しかプロトンが解離しませんが、強酸である発煙硫酸は大部分のの分子が解離してプロトンを放出します。

水溶液中のプロトン濃度を表す指標として水素イオン濃度pHが、酸がどの程度プロトンを放出するかを示す指標には酸解離定数pKaという単位が用いられます。

また、分子一個が放出することができるプロトンまたは水酸化物イオンの数を表す単位として価数が、溶液中の潜在的なプロトンまたは水酸化物イオン濃度を表す単位として価数をモル濃度で掛けた規定度が用いられます。

水素イオン濃度、酸解離定数、価数、規定度については次のページで詳しく触れます。

1-8. 酸と塩基U

(2008/09/09)